暑さが和らぎ、ヒグラシが鳴く夕暮れ時は、夏で一番好きな時間帯。
灼熱の日差しが影を潜め、
水色の空にピンク色の雲が穏やかに広がる西の空を眺めていると、
暑さが収まった安堵感と、1日の解放感を味わうことができる。
それなのに、一歩家の中に入れば、
エアコンをつけなければ耐えられないほど室内は熱がこもり、淀んだ空気が充満している。
風のない部屋は、視野も意識も萎縮してしまう。
同じ時間帯、同じ地球の上にいるのに
家の中に入ると、美しい外の世界から、まるで締め出されたかのように、外の心地よさを呆気なく忘れてしまう。
西の空に心を泳がせていた自分が
テレビ音が占拠する機密性の高い家の中で家事に追われて苛立っている。
こんなにも美しい時間帯に、
子供はテレビに、大人は仕事に囚われている。
投げ出して
美しい時間の空気をただただ吸い込んでいたい。
家の壁の内側と外側で、どうしてこんなにも世界が変わってしまうのだろう。
何から切り離されるかのように、私も変わってしまう。
風の中にいたいと心が訴える。
犬を連れて散歩に出てみる。
テレビを見ていた子供達も、我先にと続くように散歩についてきた。
愛犬1匹と子ども3人がはしゃぐ夕暮れの散歩道。
空を眺めて
風を感じ
香りを深く吸い込むように呼吸していると
心が息を吹き返す。
住宅街の家々が、巨大な壁のように見え、私を見下ろしてるように感じてしまう。
その家の中からは、優しい声が聞こえてくる。
家の中でイライラしているのは、やっぱり自分だけなんだなと何だか悲しくなる。
もう少しだけ。
もう少しだけ。
夏の夜風で心を洗うように、遠回りしながら家路につく。
街頭に照らされた3つの背中を愛しく感じられる頃には、すっかり日も暮れていた。
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