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覚悟する

八ヶ岳で畑を始めるかどうかを決めかねている時、私は町田市鶴川にある武相荘を訪れていた。
ここは、白洲次郎さんと正子さんの暮らしが今も大切に保存されている大好きな場所だ。

暮らすことにこだわるって、楽しいね

二人に愛用された品々が、存在で発しているメッセージだ。

私だったらやるわね。
ダメだったら手放せばいいじゃない
やってみなさいよ。

挑発的な若き日の正子さんの写真と対峙しながら、
ふと、そう言われたような気がして、一人ためらう武相荘でのひととき。

この人は、

やめときなさい

とは、決して言わない人だろう。

チャレンジを前に尻込みしている私の本音は、

うまくいかなかったらどうしよう
自信がない
できるかわからない
不確かなことに人を巻き込みたくない

一見、他者に対して優しそうな言葉だが、
それはとてつもなく
自分の望みに対して無責任な者の言葉であることに気付かされるのだった。

暮らすことのこだわりに溢れた空間の中で、
自分の望みが再び戻ってくるのを感じていた。

棚板が反るほどに積まれた書斎の本は、
土色に変色し、互いの境目をあいまいにしながら一つの塊となっている。

もう二度と、主に開かれることのないこの紙の束は、
その運命を受け入れるかのように
静かに、主人の気配を伝える最後の役目をまっとうしていた。

ここだけが、私の自由な天地なのです。

白州正子「鶴川日記」より

書斎をそう表現した正子さんの言葉通り、
その天地の住人たちは、今も静かにそのプライドを保ったまま、見る者に

己の天地は?

と、無言で突きつけてくるのだった。

どこでどう生きたいかを、自分で決める。

背中を押されるように、私はここで、心を決めた。

 

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