ねぇママ知ってる?バッタは前にしか飛べないんだよ。ほら見てて
閑散とした1月の畑のどこで見つけてきたのか、
小指の爪ほどにも満たない小さな茶色いバッタを手のひらに乗せて、
息子は、飛ぶのを静かに待ちわびていた。
次の瞬間、小さなバッタは、高く前へジャンプし、華麗に手の平から消えていった。
予想が的中したことに、息子は満足気だった。
同じ畑という空間にいるのに、子どもと大人では、切り取る世界が違うことを子ども通して思い知る。
私は農作業をこなすことを目的として、その日やりたいことのためにせっせと手足を動かす。
時々手を休め、吹く風の香りに、さえずる鳥の声に、大きく広がる空に溶けながら、幸福を感じる。
これで十分だった。
仕事をする空間が、会社から自然の中になったこと、それだけで自分の選択を納得するのに十分だった。
それでも、子どもと畑にいると、相も変わらず自分が労働やタスクの概念に縛られていることを思い知るのだった。
収穫を終えたコットンを、一本一本引き抜き、小さく切りながらコンポストへ埋葬する。
恵に感謝しながら、まるで看取るような、静かな作業だった。
一方で息子は、「抜けない抜けない」と大騒ぎしている。
いつも戦いたい男児の欲求は、見事に満たされていた。
そしてようやく抜けた根っこを見て嬉々として叫ぶ
ママ、この根っこ、繋がってる。すごいよ、双子かな、根っこが合体してる!
冬の畑には大きすぎる程のはしゃぎ声が、響き渡る。
見れば、綿花のコンパニオンプランツとして植えていた紫蘇と、綿花の根が融合して一つの大きな根の塊となっていた。
私一人ならば、抜きづらいと思うだけで感動もなく見過ごしていただろう。
まるで、土の中で手を繋いでいたかのようなその根の姿に、
この綿花の強さの秘密を見るようであった。
植物は土の中で助け合う。
一年草同士の短い命でも、これだけの強固な絆を結ぶ植物たち。
ならば、木は?森は?
その土の下には、一体どんな根の世界が広がっているのだろう。
想像すると、童心に帰ってワクワクしてくる。
土の中で、うねうねと伸び、絡まり、融合する根の姿は、
まるで、情報を伝え合う脳のシナプスの様にも、栄養を送り合う血管の様にも思えてくる。
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